三成が抱えている恐怖を知っている。
そしてそれが遠からず実現することを、誰よりも知っていた。

どうか許さないで欲しい。
その身が朽ちるまで憎み続けてくれればいい。
別れが確実であるなら、消えない傷となって三成の心に残りたかった。
強固な殻の下に潜りこみ、柔らかな内側に永遠に離れられないよう爪を立てた。
その爪を食い込ませたまま己は手を引こうとしている。
誰も足を踏み入れたことのない雪原のような汚れを知らないこころに、真っ赤な血潮が散るのだろう。
流れ出したら止まらない赤は、何よりも美しく、しかし三成の命を確実に縮めていくはずだ。


じりじりと焦燥に身を焼かれ、それでも愛しい存在を手放すことを躊躇した。
躊躇う内にもひとつ、またひとつと、集落では小さな灯火が消えていっている。

民草は疲弊し、これ以上は恐らく耐えられない。
安穏とした生活を得るための日の元制圧が、何よりも民衆を苦しめその先に続くはずの未来すら摘み取ってしまっている。
民がいてこその地位だ。
戦場で散っていった家臣のためにも、家康にはそれらを見過ごすことができるはずもない。
打倒豊臣の旗印を掲げよと、背を押す家臣を抑えることは最早不可能だ。
家康の進むべき道は、豊臣のもとでは進めない。


腕の中で眠る痩身を想い、呼気が震えた。


その時は、近い。














それでも確かに君を愛した

同僚時代末期

たとえ一瞬躊躇ったとしても、万民のためその道を違えたりはしない。
その先に君がいなくとも。

 

20110515(初出20110127)