※高校生三成
※オリキャラ♀視点
※オリキャラがひたすら三成に片想いしてるだけです
※申し訳程度に家康。











その日は朝から冷え込んでいて、凍てつく空気が頬を刺すようだった。
首筋に捲いた白いマフラーの先が歩調に合わせてゆらゆらと揺れる。マフラーと合わせて買った白い毛糸の手袋は、直接風が当たるのを防いではくれるが指先の温度を保つには心許無く、慰め程度にでもかじかむ指先を温めようと呼気を吹きかけた。白く染まった呼気が視界を染めるが、それもすぐに空中に溶けて消えていく。
時刻はまだ早く、登校時間には程遠い。
センター試験を来月に控えた受験生の身なので、それらしく図書館で勉強をしよう、と友人に誘われた。
言い出した本人は、朝の早さと静寂に耐えきれず早々に投げ出してしまったが、自分自身は朝の早さも静寂も苦ではなかったので気がつけば一人きりの空間で参考書を広げるのが日課になっていた。
ひと月も続けていれば、朝の早い用務員が自分が登校する時間を見計らって鍵を開け、暖房を入れておいてくれるようになっていたので、登校中の寒さを凌げば温かい空間が出迎えてくれることを知っている。だから道を行く歩幅は自然と大きくなっても仕方がなかった。
どうしても入りたい学校があるわけではない。成績もそこそこで第一志望の学校は合格圏内なので、まず問題ない。
それでもこの朝のひと時を続けるには、他人にすればなんでもないが本人にすれば重要な、理由があった。


閑静な住宅地を20分ほど歩くと大通りに出る。大通りを進んだ先を曲がってしばらく行くと目指す学校があるが、その途中で彼と会ったのだ。

その日はたまたま早く家を出すぎて、いつもと同じ道をいつもと違う時間に歩いていただけだ。
本当に偶然で、たまたま角を曲がった先に彼がいたにすぎない。
凛と伸びた背筋はまるで定規を入れているようにまっすぐで、彼の性格そのもののような歩き方をしていた。
制服の上からでもわかる細く長い脚は一歩ずつが大きく、彼の背中を見かけたと思ったら、あっという間に小さくなっていて大通りへ出た頃には通勤中のサラリーマンの影に隠れて細い体は見えなくなってしまっていた。
無意識に追いかけていたのか、気付けば息が上がっていて。背中が見えなくなったことに随分と落胆したのも仕方がない。
自分は彼のことが好きだった。
きっかけは常に些細なものだという。
自分もそれに当てはまるとは微塵も思ってもいなかったが、たとえ背中だけでも姿を見るだけで鼓動が弾むことや、声を聞いた瞬間他の音はノイズとして処理されるなど症状は末期と言っていいほどだった。

 

 

 

 

もともと内向的な性格で、つい発言を躊躇ってしまう。
その日は日直で、授業用の資料を運ぶのを手伝うように言われていた。
それでも友人たちの手を煩わせるのも躊躇われて、一人で資料を運んでしまおうと準備室に足を運べば、分厚い冊子がクラスの人数分積み上がっていた。
教師は自分が一人でいるところを見ると、顔を顰めて「参ったな、一人だと重すぎるだろう」と零したが、その手にはさらに重そうな模型と地図を抱えていて、それ以上教師自身が持つには無理があった。かといって教室と往復していたら、始業のチャイムまでに教室にたどり着けない。
思案するように廊下に首を伸ばした教師が、顔を明るくして通りかかった影を呼びとめた。
「石田、ちょっといいか」
呼び止められた声に振りかえると、彼は神経質そうな眉をひそめて教師の元へと近付いた。
「これ、運ぶの手伝ってくれるか」
教師が体を傾けて準備室内の資料を見せれば、ひとこと「わかりました」と呟いて準備室に足を踏み入れ、自分の横を通り過ぎたと思ったら積み上げられていた資料をその細腕で抱えていた。
迷いなくすべてを一人で持っているが、その体が揺れることなく重さをものともしていない。
細い体のどこにそんな筋力があったのかと感心したが、自分がここにいる意義がないと慌てて目の前の背中に声をかけた。
「い、石田くん、私も持つから」
「手首、」
思いがけないの単語が返されて、伸ばした手が中途半端な位置で揺れる。
「貴様、先ほどの授業で手首を捻ったのだろう」
確かに、袖の下では湿布が独特な香りを放っていた。
前の授業は体育だった。
運動が不得手である自分には苦行でしかなかく、友人らの嬉しそうに動き回る背中を眺めていた。当然眺めているだけで単位がもらえるわけもないので、参加もしたが試合開始五分で手首を捻ってしまい、自分の意志とは関係なくあっという間に見学コースとなってしまった。
ただそれは、女子のコートでの出来事。そんなに騒ぎになったわけでもなく、いくら体育館が繋がっているからといって、男子全員が気付くことなどまずあり得ない。
今は湿布をまいて冷やしているが、長い袖の下でそれも見えないはずだ。
「クラスの女が騒いでいた」
嫌でも耳につく。
まるで自分の疑問を見透かしたかの様な言葉に、顔に血が溜まった。

言葉少なく、教室で一人いることの多い彼は、長い前髪が鼻筋を隠してはいるが、整った顔が隠れきっているわけではない。肌の白さは女子たちが羨むほどだし、髪と同じ白銀色の睫毛は長く目を伏せれば影が頬に落ちる。
ただ、切れ長の瞳は鋭さを孕んでいて、触れればこちらが斬られそうな鋭い空気をまとった彼に近付くものはほとんどいなかった。
休み時間にともにいる姿を見かける、隣のクラスの大きな声と動作が特徴の男子はものともせずに会話をしているが、数人を除いて、教師らさえも彼を敬遠している気配すら感じる。
だから、実際は彼がどのような人物なのか誰も知らないに違いない。
周囲に対して関心が薄い彼が自分の負傷に気付いたのは偶然だったはずだ。けれど、嫌な顔一つぜずさも当然といった表情で、手首を捻った自分の代わりに相当重い資料をたった一人で運んでくれる。
こんな彼の姿を、きっと周囲は知らない。
自分だけが気付いた優越感と、唐突に襲った動機に胸を押さえた。
窓に映る自分の姿が急に気になる。髪は乱れてないだろうか、変にみられていないだろうか。
廊下を響く足音が止まったのを不審に思い、背後を振り返る彼に、なんでもない、という言葉の代わりに首を振る。
すぐに正面を向いて足を進めてしまうが、その背中はやはり資料の重さなど感じさせず天井からつられているようにまっすぐだった。
背後から教員の情けない声がしていたが、耳の近くでなる鼓動に邪魔され脳には届かない。
廊下の開いた窓から空気が流れ込む。草木が色付き始める十月のことだった。

 

 

 

 

あれから季節が二度廻った。
最終学年になりだんだんと受験に向けて教室内の雰囲気が変化していく中、彼の周りだけは変わらず静寂に満ちていた。
相変わらず彼の周囲に人は少ないが、騒がしい彼の姿は健在だった。
教師たちも勤勉な彼の姿に考えを改めたのか、一人でいるところに声をかける様子を見かけることが増え。クラスメイトも彼に害意がないことを知れば、少しずつ話しかけることも増えてはいたが、依然彼からその輪に入り込むことも、そこに溶け込むこともなかった。
あの後、彼と彼の友人が剣道部に所属していることを知り、なんとなく活動実績などを調べたりもしたが、知り得ないところで相当好成績を残していたようだった。
彼とは違い、彼の友人はクラスメイトとも円滑に交流していて、黙っていてもスポーツ推薦で進学するらしいという話が聞こえてきていた。
では彼は、と疑問には思ったが調べようもないし尋ねることもない。自分はただのクラスメイトにすぎなかった。
文武両道で学年首位を独走する彼と、そこそこの成績に満足している自分が同じ場所に通えるはずもない。そもそも自分の第一志望は女子大だった。

あと数か月もすれば、彼の姿を遠目でも見かけることはできなくなってしまう。
冬が近付くにつれて登校日は減り、数少ない登校日でも、受験のためと空席が目立つようになっていった。
だから、早朝にたまたま見かけた背中を追って登校することなど何の苦でもなく。むしろ、それに巡り合わすきっかけを与えてくれた友人には心の底から感謝していた。


やっと辿り着いた図書館の扉をあけると、暖かい空気が体を撫でて過ぎて行った。
ほう、と息をついて、後ろ手に扉を閉めていつもの窓際に陣取る。コートを脱ぎ、隣の席に掛けると鞄から参考書とノートを取り出した。いつものようにテーブルに広げ、一問一問解き進めていく。
静寂の中でシャープペンの芯が紙を滑る音が響く。友人が辛いといった静寂も、朝の厳しい寒さも頭が冴えて勉強に没頭するには丁度良かった。
しばらくすると、窓の向こうから砂を踏みしめる足音が近付いてきた。
慌てて顔をあげるが、あまりに勢いよく上げ過ぎたので外から見られていないかと上目がちになりつつ上体を伏せた。そこから見えるのは、剣道着を纏った彼の姿だ。
図書館の裏には道場が位置していて、水場はちょうど図書館の窓際に面している。当然屋外で、冷たい水しか出ないそこはこの季節疎まれていたが、彼は毎日そこで練習後の汗を拭っていた。
蛇口を捻り、掌で水を受けると徐に顔を突っ込む。雫が首を伝って胸元に滑り落ちていった。
先ほど自分が歩いていた時より暖かくなっているとはこれっぽっちも思えない。被った水が彼の体温をさらに奪っているのかと思うと、こちらがひやりとしてしまう。
常に顔の前に垂らされている前髪が水に濡れて纏わりつくのが煩わしいのか、雫の滴るそれを無造作にかきあげて普段露にならない額を剥き出しにする。その拍子に袖から覗く細い手首を雫が伝ってまた濡らした。
朝の静謐な空気は彼によく似合う。


彼が早朝に姿を現すと知ったのは、彼の背中を追いかけて息を切らせたあの日だった。
どうしてもっと早くに気がつかなかったのかと散々後悔もしたが、今更時間を戻せはしない。残りわずかな時間でも彼の姿を目に焼き付けるため、その位置でじっと見つめ続ける。
正直、友人がこなくなったのも好都合だった。

もう三年は部活を引退して久しい。彼も恐らく夏の大会を最後、引退したはずだ。だが、こうして自主練習続けることを教員たちは止めなかった。指導者不足が嘆かれる昨今、実力ある選手が居残るのに異存はないのだろう。
彼の友人も彼と同様に自主練習として放課後残っている姿を見かけることがあるので、剣道部の練習風景は今までとさして変わらないのかもしれない、と運動部に所属したことのない頭で考える。
ただ、早朝の練習は彼一人で行っていた。
そもそも彼の友人は自宅で道場を営んでいるため、こうして学校の道場を使って練習を続ける意味などないはず。朝もどうやら自宅の道場で鍛錬しているらしい。

どうにも彼の友人は、彼を異常に気遣っているように見えて仕方なかった。
気付けば孤立している彼を人の輪に収めておこうとするような。ギリギリのラインに留まっていられるように最後の一線を越させない気遣いが見える。
友人たちが話すには随分と無鉄砲で、無邪気で、一本気という評価だったが、それだけではない何かを感じていた。
ただそれは自分が思っただけで、単なる思い込みに過ぎないかもしれない。何しろ自分の目に映る彼の姿はどうにも輝いて見えてしまうので、その近くにいる彼の友人も同じように見えてしまっても仕方がない。


白い指先が赤く染まっている。
頬も、鼻先も、水に濡れ冷えたところが赤く色付くくらい彼の肌は不健康と言っていいほど白く、そして痛々しい。
あの日、初めて彼の背中を見つけた日も手袋をはめることなく、赤く染まった指先が外気に晒されていた。
それからたまに登校時に見かけることがあったが、小さくなる背中を眺めながらも赤く染まって揺れる指先が気になって仕方がなかった。
本人は気にもしていないかもしれないが、きっと彼の友人も気にかけているに違いない。あの赤さが目に焼きついて離れないで意識にこびりついている。

ふと、鞄に手を伸ばした。潜ませた紙袋が教科書に触れて音を立てる。
地元から離れたデパートで見かけた手袋。彼のイメージにぴったりだったので、渡せるあてもないのに買ってしまった。
意味もなく渡せば間違いなく不審がられる。なんと言って渡せばいい。衝動的に買ったはいいものの、一向に上手い口実など思い浮かばないで日々だけが無為に過ぎていく。
ただ、あの指の赤さが引けばいいと思っただけだった。

 

 

 

 

朝の寒さも身に染みるが、夕方の寒さはこれはこれで身に染みる。
冬は闇が町を飲み込むのが早く、進路指導室に顔を出していたらあっという間にこの暗さになっていた。
下駄箱を抜ければ一層寒さが増して手袋の下で指先が震えた。
一秒でも早く帰りたくて小走りになりかけるが、校門に思いがけない背中を見つけて思わず声がこぼれた。足が止まる。
小さな声はことのほか響いたようで、背中がくるりと回り、鋭い双眸がこちらを見据えた。
かちあった視線と、固まってしまった足が動かせず口を開けて呆然としていると、小首を傾げて「どうした」と問われる。
「なんでもないの」
慌てて首と手を横に振れば「そうか」と一言落して視線を巡らせた。
道場の方を伺っているところをみると、彼の友人がでてくるのを待っているのだろう。
「部活?」
「ああ」
なぜか。ありったけの勇気をかき集めたのでもなく、ただ自然に言葉をかけることができた。それに対して嫌な顔せず返事を返してくれることがこんなにも嬉しい。
「朝早くから遅くまで、大変だね」
「そうでもない」
言葉自体は素っ気ないが、普段の姿と比べれは今の彼はかなり饒舌だ。
「貴様も、」
「え?」
「朝、早いだろう」
息が止まった。まさか。知られているとは思ってもいなかった。
もしかして、窓際から見つめていた姿を見られていたのだろうか。
「向上心があることは、悪くない」
どこか満足そうに呟く声に喉が詰まった。

ただ、あなたの姿を目にとめたくて朝早くからあの場所にいたんです、と。
不純な動機を告げてしまったら、この穏やかな空気は一変してしまう。わかっているから、今にもこぼれそうな思いを唇を噛みしめて堪えた。
秘めた思いは口に出してはいないから誰も知らない。
自分だけが知っている思いを今更声に出そうとは思わない。
だから、一瞬詰まった言葉をごまかすように、視界の端で揺れた赤い指先に話題を逸らした。
「指、赤くなってる」
思い出したように彼が視線を向けた。なんでもないことのように、ああ、と呟いてすぐに視線は空へ向かった。
「寒くないの?」
「ああ」
「痛くない?」
先ほどから彼の口からこぼれるのは母音のみだが、まるで詰問するように攻め立てる。
一言でも寒いと、痛いと言ってくれさえすれば。
なんでもないことのように、鞄の中で小さくなった手袋を渡せる気がした。
思わず鞄を持つ手に力が入る。

「構わない」
まっているから。

後に続いた言葉は空気に攫われるほど小さな声で。
指先に息を吹きかければ、白い空気とともにぼやけて消える。
決して、後から追いかけてくる友人のことを言っているわけではない。
根拠はないのに確信に近い。
溶けてしまいそうな切なげな表情がうっすらと彼の白い肌を覆った。

胸が締め付けられて痛い。
すぐそばに立って、クラスメイトの誰よりも言葉を交わしたとしても。
彼の目に映ることはない。
ただひたすらに自分の知らない誰かに想い焦がれ。
その身が凍てつこうとも、その痛みすら相手を思い出すきっかけに変えて。
こんなにも人を想えるのだろうか。
痛みすら慕情にかえる想い。

じっと、鈍痛を訴える胸を押さえて横顔を見上げていた。
どんなに視線を向けてもこちらに気付かない彼に目の前が霞んで見える。

離れた場所から、彼の名を呼ぶ声がした。
支度の終わった彼の友人が名前を呼んだのだろう、宙に浮いていた彼の視線が、声の聞こえる方に向かって焦点を結ぶ。
今の今まで浮かべていた儚さは消え失せ、常のどこか張りつめた空気が戻ってきていた。
砂を踏む力強い足音が近付いてくる前に、と早口に別れを告げる。動揺が隠せない表情を彼に見せるのは憚られたので慌てて俯き、背を向けた。

低く涼やかな声で名前を呼ばれ、足を止めた。

名前で呼ばれたことに違和感はなかった。
男子から呼ばれることなどほとんどないのに、彼に名を呼ばれることは当然だと思った。
振り向いた先に見た彼は、張り詰めた表情を浮かべておらずどちらかといえば、先ほど浮かべていた儚い表情に近い。
表情に乏しい彼を彩った、わずかな微笑み。
小さく動かされた唇を正しく読み取ることなど容易にできた。

ありがとう。

声がこぼれる代わりに呼気がこぼれて白く染まる。
瞬間、込上げてきたのは物言えぬほどの安堵だった。
見えない何かから解放されたような。ずっと自分ですら気付かない胸の奥に眠っていた不安を、その一言が溶かしたようで。
足元から崩れそうになるほどの感情に、手袋の中指先を握りしめた。そうでもしなければ叫び出してしまいそうだった。
言葉の代わりに首を強く横に振り、今度こそ背を向ける。
ひたすら足を進めれば、頬を熱い雫が流れて行った。
雪だ。想いが積もり過ぎて零れ落ちただけだ。
震える喉は決して、半ば駆け足になったせいではない。それでもごまかすように、駆けだす。
早く早く。
この想いがすべて溶けて流れてしまえばいい。

凍てつく夜は、終わりが見えず、どこまでも続いていくようだった。

 

 

 

 

 

 

あれから何年もの時が過ぎた。
結局あれ以来彼と会話をしたことはない。
決して互いが互いを避けたわけではなく、今まで通りただのクラスメイトであっただけだ。
彼の指先を温めるために買ったはずの手袋は結局渡せず、箪笥の肥やしとなっていた。しかし、ことの顛末を話した上でその手袋を貰い受けたいという奇特な相手がいたので、今はその相手の指先を外気から守っていることだろう。
凍てつく空気が、あの朝と同じように頬を撫でていく。首を竦めてマフラーに顔を埋めれば、道行く人たちも同じようにして風から身を守っていた。

「うわ、お前、指先真っ赤だぞ」

もげるんじゃないのか。慌てたような声が耳についた。
快活な声に滲んだ焦りに、声の主が余程気に留めていることを知る。

「うるさい、もげるはずがないだろう」

続いた声に、思わず顔を上げて声の先を探した。
確かに聞き覚えのある硬質な声。真っ赤に染まった指先。
忘れようもない背中を思い出して人混みを探せば、あの日と同じ、凛とした姿が人々の間から微かに覗いた。
仕事中なのだろう、コートの下にスーツを着込んでいる姿は当然初めて目にするが、なるほど様になっている。
彼の隣を歩く人物は、しきりに話しかけては邪険にされているが、それでも話しかけることを止めたりせず。真っ赤に染まった指先を手にとって、温めるように自らの手に挟み何度か摩り合わせた。
すぐに自分の手を取り返すように、乱暴な仕草で彼は腕を払うがそれに気を悪くすることもなく、変わらない笑顔のまま彼を覗きこんでいた。

待ち人、きたる。
おみくじに書かれているような文言が脳裏に浮かんだ。
同時に、抑えられない喜びが胸に溢れる。

冬色に染まった景色の中で、彼が一人きりでないことが言葉にできないくらい嬉しい。
彼の隣で笑うあの人こそが、凍てつく冬に彼を温めることのできる唯一の太陽なのだ。

「初芽」

足を止めた自分を訝しみ、名前を呼ぶ声がする。
緩んだ頬もそのままに声の主へと駆け寄った。
そうして、自分の太陽に腕を絡めて歩き出す。

白い手袋の下で、揃いの指輪がきらりと光った。


少し離れた場所で、涼やかな笑い声が聞こえたような気がした。














初芽から見た三成(若干家三)
何度生まれ変わっても私はあなたに恋をする

初芽がほぼオリキャラで申し訳ない感じに。
無意識に弱者に対して優しい三成を想像したらこんなことになりました。
三成のクラスメイトは幸村です。

実はリーマンにリンクしてるんですが、知らなくても問題なく読めます。

110122