差し出されたグラスと、差し出してきた相手の顔を交互に見た。
含む所の無い笑みが向けられていることに、政宗は頭に浮かんだ言葉に苦虫を噛み潰したような顔をした。


久しぶりに二人きりで過ごせる時間は幸せに満ち足りていて、いっそこそばゆいほどだ。
筋張って男らしい掌が、政宗の用意したグラスを口に運ぶ仕草を目にするだけで、頬に血が上る。
カラリと音を立てるグラスの中にはアイスココアが入っており、それは見かけによらず甘党な幸村のためだけに政宗の部屋に常備されているものだ。
みてくれに反して、政宗は甘いものをそれほど好む舌をしていない。よって、政宗が手にしているグラスに注がれたのは、甘さを含まない烏龍茶であった。

開け放した窓から、どこか湿度を伴った風が入り込んでくる。
先日入梅したためか、日差しが強いというのに。
ベランダで揺れている洗濯物はこの日差しで乾くだろうが、明日からの予報は雨模様を告げている。
屋内で行われる幸村の活動には、なんら支障がないことが恨めしい。
せめて屋内でなければできない活動であれば、共に過ごすことのできる時間が増えただろうに。
目の前の涼しげな男はそんなこと思いもしないのだろう。
だが、そんなところまでもを好いてしまったのだといえば、それまでだ。
物憂げなため息をつきそうになるのを、隣にいる幸村の視線に気付き飲み込む。

「ゆきむら、」
「飲まれますか」

出されたグラスの中では甘ったるいだろうココアが、わざわざスーパーで買って用意した氷と共に揺れている。
「ずっとこちらをご覧になっておられましたので」
ココアを飲みたいのではないのかとあんに問うてくる瞳に、出されたそのグラスを受け取るほか無かった。
まさか、幸村に見惚れていたなどと口が裂けても言えるはずが無い。

受け取ったグラスは水滴が覆っており、幸村の指から伝った水が政宗の指を濡らす。
その感覚にすら息が止まる。
幸村の隣にいるだけで、こんなにも滑稽な政宗ができ。

グラスを口に運びかけ、気付く。
先ほどまで幸村が手にしていたグラスの口元には、当然唇の後が残っていた。
そのことに、やっと下がりかけていた血が、あっという間に顔中に昇ってくる。

幸村はこちらをみて、にこりと笑んだ。
含みなど、一切見えない。

手の中で氷の入った器が、小さく音を立てた。














グラスとくちづけ

政宗の部屋にあるものは大体幸村の(ための)物
幸村→←←←←←←政宗 くらいな幸政

 

20110515(初出 20080608)