差し込んでくる陽ざしに夜がとうに明けていることを知る。夜明けというにはまぶしすぎる日差しが幸村の顔を照らした。
昨晩はいささか飲みすぎた。

久方ぶりに三成の居城を訪れると、そこには義を誓った友人と、友人と犬猿の仲であるはずの竜の姿があった。
飲みながらも口論を止めない二人の姿に、幸村の口元に苦笑いが浮かんだがそんな光景を見られることにも幸福を覚える。
出される肴を適度につまみつつ、杯を重ねた。

夜も深まり、近侍の者たちも左近以外帰してしまった佐和山城は一カ所だけがやたらと騒がしく温度をあげていたが、翌日も勤めのある三成が席を立てば自然と会はお開きとなった。
気を利かせたのか、はたまた面白がっているのか、幸村に与えられた部屋は奥州の王と同室であった。

ごく一部にのみ知られているが、幸村と政宗はいわゆるひとつの恋仲というものだ。

久しぶりの宴会が、久しぶりの逢瀬となり幸村は笑みを抑えきれない。
当然政宗とてそれは同じ事であったが、二人きりで逢いたかった念の強い政宗としては佐和山という場所も兼続の存在も気に入らなかった。
やっと二人きりになれ、意図して三成たちと離れた場所に部屋を与えられ、しかも両者に適度な酔いが回っていたとすれば。

いささか張り切りすぎても仕方がないものである。


昨晩ことにおよび、汚れと汗を拭った体には心地良い倦怠感が残る。
酒に弱いわけではない幸村は、二日酔いとは無縁であるが、隣で眠る政宗は恐らく一日しかめっ面で過ごすのであろう。
それを考え、その表情までもが愛おしいと思ってしまう幸村自身に苦笑いが浮かんだ。

簡単に近くに落ちていた着物に袖を通す。この平和な幸せの中に居続けたいとは願っても、いつまでもこのままではまずいだろう。
隣でうずくまり小さくなる塊に手をかけ、朝を告げようとした。

蒲団にくるまって手足を縮め小さくなっていたのだと思っていた。


声にならない悲鳴が、城内に響き渡った。


すわ来襲か、と三成と共に政策について話し合っていた左近が脇差に手をやる。
音をたてて二人のいる部屋に向かってくる足音は、どう考えても刺客の立てる音ではない。
訝しげに首を傾ければ、障子が壊れるのではないかと思うくらの勢いで、障子があいた。

「みみみみみみみみ、ちょッ・・・ま・・・ッ!!」

そこには息を切らせた幸村が、片腕に何か小さな物体を敷布に包んで抱えて立っていた。

「ちょっと、幸村殿あんた、着物! 殿も倒れないで下さいよ!」
一応帯は止めてあるがそれは申し訳程度で、大きく開いた前からは引き締まった体が惜しげもなく晒されている。
太ももから晒されている足は筋肉に覆われ、それをみるだけで、左近の隣で後頭部から畳に着地しようとしている三成は出てはいけないものが出そうになる。

「し、失礼いたしました、ですがッ・・・!!」
慌てながら袷を戻そうとするが、どうにも片手だけでは上手くいかないようすだ。

「そもそも、その白い塊はなんなんですか」
片腕で倒れかけている三成を支えながら、左近は問うた。
うなされているのに幸せそうな主君の姿に頭を抱えたくなった。

「そ、それが」
「・・・・ぅぅん・・・、」

おそらく元凶となっているであろう塊が小さくうごめく。
そこから覗いた顔に、かたまった。
これは。

「・・・・こじゅぅろ・・・?」
「だれですかそれは」

「不穏なオーラ出さないで下さいよ、幸村殿」
母親みたいなあの人でしょう、といいつつ、目が覚めた小さな生き物に視線が固定される。

実に、小さい。
おそらくこれは、昨夜幸村と褥を共にしたはずの。

「随分と小さくなったものだな、政宗」

いつの間に起きたのか、腕の中で三成が声を発する。
ちらりちらりと、肌蹴た幸村を見ては頬を染めるのをやめてほしい。
ようやく意識がはっきりとしてきたのか、周囲を囲む大人なたちに警戒心をあらわにする。

「だれじゃ、きさまら! はなせ、はなさぬか!!」
幸村の腕の中で暴れる姿は、さながら小動物だ。

「こじゅーろ!こじゅうろー!!」
「はっ、小十郎はここに、ま―――」

「――梵天丸、さま」


「こじゅうろう!」

幸村の腕を振り切って、突然庭先に現れた小十郎めがけてとんでいく。
政宗のためにあった腕が急に軽くなり、幸村は虚脱感に襲われる。

感動の再会を果たしひっしと抱き合う二人に、隣に立つ青年の周囲を不穏な空気が漂うことに気付いた左近は、そっと胃を抑えるのであった。


「オレはあの『小十郎』なるものをこの城に招待した覚えはないのだが」
「・・・・兼続殿だって、招待してませんよ、殿」















殿が幸村に萌える話

幸政・・・・のはず
続いたりはしない。

たまには両思いっぽいものをかこうと思ったら、間違った方向に飛んでいきました。

 

20110509(初出 20080621)