※リーマン家三
※同棲一年目のいちゃいちゃ喫煙&禁煙話
※本編では性的描写を含むため、18歳未満の方はご遠慮ください










例によって例のごとく、営業一部は多忙を極めていた。
月末提出書類の山が家康の机に山となって築かれている。定時までに部下たちが処理した書類に片っ端から目を通すため、ここ一週間午前を回っての帰宅ばかりが続く。
とはいえ、時刻はすでに23時を回っている。
あれだけ張りつめていた空気も、人がいなければ発生源がなくなり閑散とした空気が漂うだけだ。
人が詰まっていた社屋もガランと広く、明かりのついている部署などほとんどない。いくら月末で切羽詰まっているといっても、日付は自宅で越えたいのだろう。
そんな中、家康は喫煙スペースで一息ついていた。
本当は家康自身自宅で過ごしたいと思って当然である。
何といっても、紆余曲折の末ようやく素直でない恋人と同棲を始めることになってまだ数カ月しかたっていないのだ。新婚家庭といっても過言ではない甘い日常を送っていて然るべきであるのに、なぜこうして社屋に残って煙草をふかそうとしているのか。
答えは単純、家に帰っても、その恋人がいないのだ。
家康らが必死に作り上げた決済書類をさらに捌きまとめあげるのが経理部の仕事である。
営業部など各部署が提出した書類をさらに取りまとめる経理部の面々は、全員が全員目を血走らせて作業を進めていた。
そしてそこに恋人、三成は所属していたのだった。

胸ポケットから多少歪んだ箱を取り出し、その中の一本を口に咥えるとライターに顔を寄せて火を点す。
肺一杯に吸い込んだ煙をゆったりと吐き出す。火のつけられた煙草の先からは紫煙が上がって排気孔へと流れて消えた。
動作の一つ一つが流れるようで、嗜むようになってまだ一年と経っていないというのに随分と消費したものだと思う。
そもそも、煙草を吸うようになったのは務め初めてからだ。
周囲への反抗心や友人に勧められたからなどという思春期にありがちな理由でもなく、ただ単に口寂しかったからにすぎない。
なんとなく持て余していたのでうっかり手を出したらはまってしまったとか、そんな理由だ。
大学の頃、散々周囲の喫煙者を窘めていたというのにとんだ変化だ。しばらく顔を合わせていないからまだばれてはいないだろうが、今度会った時にはどやされるかもしれない。
そう考え、いや呆れるか、と考えを改め口元に苦笑いを浮かべた。
付き合いの長い彼らのことだ。どうせ、家康が何を思って煙草を覚えたかなど想像に易いだろう。


 

 

(中略)

 

 

 

期待を込めてドアに手を懸けると、抵抗なく扉が開いて帰宅した家康を迎え入れた。
空は夕焼けに染まり、時期に夕闇に飲まれる。まだ明るいこの時間に玄関を開けることなどほとんどなかった。それが今日はわざわざ鍵を開ける必要もなく、こうして米の炊ける甘い香りが玄関まで流れてきている。
つまり、そういうことだ。
革靴を脱いで、揃える暇も惜しく半ば駆けるようにして物音のするキッチンへと向かった。
飛び込んできた、黄色いエプロンのを身にまとった姿が目に眩しい。
蛇口から流れる水の中でレタスが小さく千切られては、水を切るざるに放られていく。ヘタと皮が付いたままのトマトが四分割されて、二つずつ小皿に盛られていた。
こちらに家康がいることにも気付かずに、熱心にレタスを千切る背中から腕を回して抱きしめる。久し振りの抱擁だ。
一瞬驚いたように身を跳ねさせたが、このようなことをする相手は他に知らず冷静なまままた緑色の葉を千切った。
「早かったな」
「うん、三成が早く帰れっていうから」
ただいま。
耳元で囁くと、ちらりと家康を見た視線が彷徨い、手元に視線を落としてから。
おかえり。
この至近距離だからやっと聞こえるような、下手すれば水音に攫われてしまうような小さな声で呟いた。

なんて特別な言葉だろうか。
同じ場所で過ごすようになって、この言葉が耳を擽るたび、いまだに顔に火がともったように赤くなってしまう。
優しくて、甘くて、温かい言葉。
よく見れば三成の首筋から耳元まで赤く染まっていて、堪らなくなり抱きしめる腕に力が入った。
片腕はそのままに、もう片方の手で三成の顎を掬い上げると、背後からそっと接吻けた。
瞼をそっと下ろして接吻けに応じる三成の銀色の睫毛が細かく震える。
甘い香りは直に米が炊けることを告げている。火にかけられた鍋は、精一杯三成なりに考えたレトルトカレーの準備だろう。蓋が震えて、湯が沸騰していることを告げている。
体勢を代え、触れるだけの接吻けを数度繰り返している隙に、コンロに手を伸ばし火を止めた。
かちりと音を立てて立ち消えた温度に、蓋の震えが止まる。
訝しげに目を開いた三成を徐に抱き上げると、そのままキッチンを後にして寝室へと足を向けた。
「い、家康!」
「駄目だ、辛抱ならん」
「料理が冷めるだろう!」
「温め返せば良い、っていうか、そのためのレトルトだろう?」
「違う!」
実際本意ではなかったのだろうが、真っ赤な顔で叫ぶ三成も抱え上げられた腕の中で抵抗は弱い。
家康が三成の部屋のベッドにゆっくりと体を下ろしてその上に覆い被さっても、顔をさらに赤く染めるばかりで抵抗はなかった。
それに思わず笑みがこぼれると、照れ隠しにか伸びてきた指が頬を摘まんだ。
「貴様、何を笑っている」
「いたいいたい、三成痛い」
そうは言いつつも、三成自身分かっているのかそれ以上は何も言わず、ふんとそっぽを向いてしまった。
頬に触れていた指先を己の指先に絡め取る。先ほどまで水に触れていたせいで、普段から低い肌の温度がさらに低くなっていた。温度を送るように、両手とも指を絡めて顔の横へと張り付ける。
「三成、こっち見て」
家康の声に誘われるまま顔を正面に向ければ、柔らかく唇が合わさる。
帰宅した家康を迎え入れた時のような柔らかな接吻けから、次第に深く重なって吐息を絡め取るように勢いを増した。
シーツの上で銀色の髪が踊る。
家康が顔を離すと、銀色の糸が二人を繋いでいるのが見えて、顔に血が上る。
カーテンからわずかに挿し込む光が、家康の表情をはっきりと浮かび上がらせていた。それはつまり、三成の姿も家康の目に余すところなく見られるということだ。
今まで抵抗という抵抗を見せなかった三成が突然困惑するように下から這い出ようとするのを、家康は訝しく思った。
「三成?」
「カーテンを、閉めろ。明りが、」
頬を染めて良い澱む三成に、ああ、と声をこぼし。そのまま三成の腕を頭上で一つにまとめると、家康はネクタイを片手で抜き去って床に落とし、ワイシャツのボタンをいくつか外した。
「ワシは、三成の全部が見たい」
そういうと、エプロンの下の三成のベルトを無造作に外し始めた。
「ば、馬鹿か、貴様!」
慌てて抵抗しようにも両腕を抑えられたうえ、体重を乗せられてしまえば抵抗のしようもない。それでも諦めきれずに暴れていれば、家康が顔をあげてにやりと笑みを浮かべた。
「そんなに嫌ならエプロンをつけたままでやるか、それなら前は隠せるだろう」
なんかAVみたいだな、と照れくさそうに零すのに、照れるくらいなら初めから言うな!と思わず叫び返してしまった。















珍しく家康視点かもしれない。
相変わらずばかっぷるで申し訳ない 。
エロパートは非常に短いです。

110612発行