このへんとかこのへんのシリーズです。
※家康と竹千代、三成と佐吉がそれぞれきょうだい。









濃姫先生が佐吉の来訪を迎える声に、掴んだ積木をそのまま放り出して下駄箱へと駆ける。湿気た廊下は滑りやすく、上履きがきゅっきゅと音を立ててバランスを崩しそうになる足元を支えていた。
外は朝からざあざあと音を立てて雨が降っていた。五月晴れから一変、空は雲に覆われ容赦なく雨粒が地面へと降り注ぐ。
廊下の突き当たりを曲がれば登園してくる生徒たちがぱらぱらと姿を現し、その中によく見知った姿を見つけて加速をつけた。

「さきち、みつなり、おはよう!」

学生服に身を包み、長身で細身の姿は良く目立つ。なにより、銀色の髪が雨に打たれて濡れていようとも、廊下を照らす人工の光に弾かれて眩しい。それは三成の腕に抱えあげられた佐吉とて同じことだが、黄色いレインコートで頭まで覆われていて三成と同じ銀色をした髪は晒されていない。

「おはよう、竹千代」

返したのは三成だけ。いつもならば竹千代を見つけると花が咲いたように笑むのに、今日はその顔を伏せたまま竹千代を見ようともしない。

「さきち?」

名前を呼んでも小さな身体は三成に抱えられたまましがみつき離れようとしない。
宥めるように濃姫先生が覗き込んで声をかけても、三成の肩に顔を埋めて顔を左右に振っている。
訝しく思い、首を傾げながらもう一度名前を読んでみる。すると、ゆっくりと顔を向けた佐吉は地面を濡らす雨だけではない涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。

「たけちよぉ…」

ようやく顔上げたと思うと、花が咲くどころか大きな瞳に涙を浮かべ、掠れた声で名前を呼ぶ。

「ど、どうしたんだ」

くしゃりと顔を歪める佐吉に慌ててしまう。

「か、かさぁ…ッ」
「かさ?」

とうとう泣きだしてしまった佐吉に途方に暮れて三成を見上げる。見上げた先の三成は、佐吉とそっくりな顔に苦笑いを浮かべていた。

「竹千代と揃いで買った傘があっただろう」
「きいろの」
「そうだ、それが今朝壊れてしまってな」

事実を再び耳にしてしゃくりあげる佐吉の背中を摩りながら、三成は溜息をついた。


(中略)


「三成の家に寄るんだったら、夕飯も一緒にどうだ。台所さえ貸してもらえればワシが調理するが。何か食べたいものはあるか」
「任せる」

三成の家に寄って帰ることはままあり、決まってそのときは夕飯もそのまま四人で食べるので今日もそうだろうと、半ば決まった体で問う。案の定、気のない返事しかないがこれは信頼のなせる技だとポジティブに考える。
なにせ、三成は料理ができない。当初は自炊する予定だったらしいのだが、あっさり今は共に過ごしていない両親にも似た存在に禁止令を発動されてしまい、普段の食事は近所に住む吉継がほとんど用意していた。
三成にすると甚だ不本意ではあるらしいが、包丁を握らせた直後包丁を持った方の指から血を流されては禁止令が正しいとしか思えない。いっそ逆に器用だ。
そういった理由で、家康もちょくちょく三成たちの食事を世話している。四人分の料理ならばその分量も作れて、結果的に食費も浮くことになるので願ってもない。
そのうえ、忘れられてしまいそうだが、家康と三成はお付き合いをしているのだ。
いたって健全な関係ではあるが、恋人同士なのだから少しでも長くともにいたいと思う感情は同じはずだ、と信じたい。
そんなことよりも今は今晩のメニューである。
折角四人いるのだから、普段は作れない鍋ものでも、と思ったが、作り置きが可能で明日以降も三成たちが簡単に食べられる料理を作って置いた方がいいかもしれない。だとしたら、今夜はカレーかハヤシライスか。

「いえやす」
「なん、」

夕飯のメニューに頭を巡らせていると、ふと名前を呼ばれて正面を向く。
一つの机を挟んで椅子だけを引き寄せた形で向き合い食事をとっているので、距離は近い。
天気が良ければ屋上に出ることもあるが、朝から続く悪天候では誰も外に出ようなどと考えたりしない。雨が上がったところで、今度は訪れる夏の日差しが肌を焼くので三成は屋上に上がろうとも思わないだろう。白い肌が焼かれていくのは家康としても遠慮したい。
そんな考えも、口元に伸ばされた白い指先で一気に吹き飛んで行った。
細い指先が家康の唇に触れるか触れないかの位置を掠めて引いていく。















か わ い い は せ い ぎ !

家三はナチュラルに出来上がっております。
そして家三本で初の全年齢という快挙 。

120617発行